JULIA BIRD / -



 咄嗟に叫ぼうとして、それが無駄なものだと悟る。
 然しそれでも、無粋な死神の足音はその背に向けて接近して行く。止まる事はない。
 ひたり、と狙いを定めた黒い孔が一直線に見据えるその先。
 
 「    」
 
 結局は叫んだのだろうか。叫ぼうとしたのだろうか。無駄なものだとしても。
 否。無駄な行為だと解っていたから、きっと口を開くより先に足が地面を蹴っていたのだろう。
 狙われた背中には遠い。それよりも黒い物騒な凶器の方が未だ近いが、切り伏せ止めるには余りに遠いから。
 
 騒がしい戦場の夜を、一発の銃声が引き裂いた。
 その射線を、死神の向かう無情な途を引き裂いたのは、声でも名前でもなく、
 
 「ひじか、っ──」
 
 藻掻く鳥が羽根を撒き散らす如くに。黒い隊服に紅い華を咲かせた、男の姿。
 
 
 気にすんじゃねぇ。
 それもまた声にはならなかったけれど、袈裟に振り下ろした刃で射手を斬り捨てる事で、伝えられたのだと思う。
 焦りを滲ませた顔でこちらを振り返った遠くの男は、それでも己の眼前の敵を倒すより、土方の方へと駆け寄る事を選ぶ様な馬鹿な真似はしなかった。
 しないでいてくれた。
 
 だから安心した。
 暫時激痛も熱も忘れる程に。
 歓喜の様な、高揚感の様な、思惑通りにいった満足感の様な、そんな安堵を覚えた。

 届いた、のではなく。
 通じたのだ、と言うことに。酷く。







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